小さい頃からドッジボールで遊んだり、水泳の記録会に出たり、体を動かすほうが楽しくて、勉強はあまり好きじゃなかったんです。だから、高校を卒業したら就職したいと思って、進んだのが地元の商業高校。情報システム科のクラスで学んだのですが、社会で役立つ資格を取れるだけ取ってやろうと、心に決めていました。10種類以上の資格を取ると賞状がもらえるので、簿記、ワープロ、プログラミング、電卓検定など、いろんな資格を取りましたね。
　長いお休みの時は、スーパーでレジ打ちのバイトをしました。お金の出し入れに関わったこともあり、「お客様とやり取りしているお金って、どんな風に流れていくんだろう？」そんな疑問から、お金の動きに興味を持つようになったんです。そうそう、初めてお給料をもらったのもここでした。手にしたのは２万円でしたが、高校生にとっては大金ですから嬉しかったなあ。お店のお客様も優しくて、見ず知らずの私を心配してくれたり、気軽に声をかけてくれたり。しみじみ、地元のあたたかさを実感しましたね。

　高校の推薦を受けて、入庫したのが地元にある水沢信用金庫。最初に配属された江刺支店で窓口業務を担当したのですが、失敗の連続でした。目の前の仕事に集中しなければならないのに、他の仕事が気になってあれこれ手をつけてしまうんです…。少しでもミスをなくそうと、こまめに先輩にチェックしてもらったり、間違えたことをノートに書きとめたり。それを地道に続けて、多くの仕事を同時にこなす力を身につけていきました。
　異動の辞令があったのは、３年目の春。引き継ぎに出向いたところ、なぜか名刺が５箱も積まれていて…不思議に思ったんです。「人当たりの良さを見込んでお願いしたい」と、命じられたのが渉外担当でした。いわゆる「外回り」ですが、企業や個人事業主のところにお伺いして、売上をお預かりしたり、送金の手配をしたり、様々な商品のご提案をすることが主な仕事。個人のお客様には、定期預金のお預かりをはじめ車や住宅ローンのご利用案内など、暮らしに関わるお金についてお手伝いしています。最初は不安しかなかったのですが、パンフレットを読み込んで勉強を重ね、少しずつ苦手意識を克服。だんだん話ができるようになると、お客様とじっくり向き合う楽しさを感じるようになりました。

　渉外の仕事は、「お客様を知ること」から始まります。１回、２回とお話を重ねることで、お客様の好き嫌いなどを把握し、その方にあったお話の仕方を考えるようになりました。一番嬉しかったのが、一番苦手だった融資の仕事での経験。お客様から住宅ローンを組みたいというお話があったんですが、やはり高額ですから、書類も多いし、審査も厳しい。お客様にも協力してもらい、自分でも頑張って、半年ほどかかって融資の実行にこぎ着けました。「明香里ちゃんのおかげで家が建ったよ。今度見に来てね」と言われた時は、嬉しくて嬉しくて。お客様のお役に立てた上に、ご家族の笑顔を見ることができて私まで幸せな気持ちになりました。
　同世代の方から、おじいちゃん、おばあちゃんの世代まで、幅広い年代のお客様とお会いしますが、仕事のこと、家族のこと、趣味のことなど、いろいろなお話をお聞きします。両親と同じ世代のお客様から親心を教えてもらうこともありますし、生き方のヒントになるような話を伺うことも。私にとってはみんな人生の先輩たち、仕事を通してたくさんのことをお客様から勉強させていただいているんです。

　渉外担当になって６年目、ずっと心がけてきたのは「約束を守ること」。ちょっとした質問であっても、先輩に聞き、自分で勉強して、しっかりお答えする。小さな信頼を積み重ねることが、お客様との関係づくりにつながると思うんです。そうすると、呼び方も「信金さん」から「鈴木さん」、「明香里ちゃん」と変わってくる。親しく呼ばれるようになれた時は、信頼してもらえたんだと誇らしい気持ちになります。
　今の仕事は、個人のお客様や個人事業主とのお取引が多く、金額だけを見たら小さな融資かもしれません。でも、新車を購入して業務がはかどるようになったとか、新しい機材を買って店の売り上げが伸びたとか、お客様の暮らしを上向きにする大きな変化につながっている。融資の仕事を通して、お金の流れをつくることは、同時に幸せをめぐらせることだと気付きました。もっと、地域のみなさんを元気にするお手伝いができるように。そして、このまち全体に幸せがめぐっていくように、お客様一人ひとりとしっかり向き合っていくことが目標です。